Claudeに、バイオリズムを作ってもらいました。誕生日を入れると、23日・28日・33日の3本の波が出てくる、あれです。
作り終わってから、ふと気になりました。この3つの数字は、どこから来たんだろう。
自分のサイトに置くものなので、調べました。思っていたより、だいぶ変な話でした。
23日周期は、もともと鼻の話でした
23日と28日を言い出したのは、ヴィルヘルム・フリースという、ベルリンの耳鼻科医です。19世紀の終わりごろ。
フロイトの親友でした。フロイトは彼を「生物学のケプラー」と呼んで、自分の鼻を何度も彼に手術させています。
そのフリースが考えたのは、こうです。女性には28日の周期がある。卵巣が司っている。では男性にもあるはずだ。それは23日で——
鼻の中にある。
冗談ではなく、鼻の奥にある鼻甲介という部分が、男性の23日周期の中心だと本気で考えていました。耳鼻科医なので、話が全部鼻に帰ってくるのです。
つまり、23日は「身体」の周期ではありませんでした。28日も「感情」ではありませんでした。男性の周期と、女性の周期。いま私たちのアプリが「身体」「感情」と呼んでいるものは、どこかで意味が差し替わっています。
ついでに言うと、フリースは数字をいじるのが好きな人でした。どんな数を持ってきても、23と28を使った式で表せる、と喜んでいたそうです。それは発見ではなくて、整数の性質です。
33日だけ、出どころが見つかりませんでした
残った33日——「知性」の線です。
どの説明にも、同じことが書いてあります。1920年代、オーストリアの工学教師アルフレート・テルチャーが足した。根拠は「自分の学生の出来が33日周期で上下していたから」。
ところが、ここから先に進めませんでした。テルチャー本人が書いた論文も、本も、見つけられない。英語版のウィキペディアもこの一行に懐疑論の事典を引いているだけで、そこから先をたどった形跡がありません。
私の調べ方が足りないのかもしれません。でも、少なくともふつうに調べて出てくる範囲には、出どころがない。
自分のサイトに3本の線を描いておいて、そのうち1本は誰が言い出したのかよく分からない。これはちょっと、落ち着かない気持ちになりました。
日本では、占いではなく「安全管理」でした
ここからが、いちばん驚いた話です。
早稲田大学の岩崎秀雄さんが、日本のバイオリズム・ブームを文化史として調べています。それを読むと、1970〜80年代の日本で、バイオリズムは雑誌の占いコーナーの話ではありませんでした。
- 警察、自衛隊、交通組合、企業、スポーツ界で使われた
- ほとんどの生命保険会社と自動車連盟が、国際バイオリズム協会と契約していた(2004年の時点で)
- 日本体操協会の契約が切れたのは、2001年
2001年です。つい最近の話です。カシオがバイオリズム計算機を売っていたのも、この流れの中でした。
私がゲームの隣に並べて置いているものが、ひところの日本では事故を減らすための道具として扱われていた。これは想像していませんでした。
「事故の80%が要注意日」を、数えてみました
その時代の決め手として、有名な数字があります。
1971年、東京の交通事故の80%までが、運転手の要注意日にあたっていた
まず、出典を確かめました。これは警察が出した資料ではありませんでした。バイオリズムの計算サービスを売っていたバーナード・ギッテルソンという人の1975年の著書に、「日本の警察の成果」として書かれている一文です。
その上で、この80%が多いのか少ないのかを考えました。これは数えれば分かります。
23・28・33の最小公倍数は21,252日(約58年)。ここで3本の波はぴったり振り出しに戻るので、この58年分を1日ずつ全部数えれば、割合が確定します。
問題は、「要注意日」が何日を指すのかでした。数え方を4通り試しました。
要注意日の数え方 どれか1本が該当する日 厳密に、線がゼロを跨ぐ日だけ 20.30 % ゼロを跨ぐ2日とも数える 37.70 % 跨ぐ日の前後1日も数える 52.44 % マイナス側にいる日を全部数える 87.86 %
いちばん厳しく取れば、要注意日は全体の2割です。その2割の日に事故の8割が集中していたのなら、これは相当なものです。
でも、いちばん緩く取ると87.86%。線が3本あって、それぞれ半分はマイナス側にいるので、どれか1本がマイナスの日は、ほぼ9割になります。
この数え方だと、「事故の80%が要注意日」は、偶然より少ないことになります。何も言っていないどころか、逆を向いてしまう。
そして、さきほどの本にはどの数え方なのかが書かれていません。だから、この80%が強い数字なのか、ただの日数の話なのか、決められない。
ちなみに、バイオリズム理論そのものは、研究としては決着しています。1998年にTerence Hinesが『Psychological Reports』誌(83巻1号19〜64ページ)で134件の研究を精査して、支持する結果はすべて方法論か統計の誤りによるものだった、と結論しています。
それでも、置いています
ここまで調べて、消そうとは思いませんでした。
波を見るのは、素直に面白いからです。23日と28日と33日で揺れる3本の線は、次にそろう日が58年後です。自分の誕生日から数えた線が、いまどのあたりにいるのか。それを眺めるのは、十分に楽しい。
ただ、言葉は選びました。このアプリには「要注意日」という言葉を使っていません。「ゆらぎ」と書いています。
画面の下に、こう書いてあります。
当たり外れを競うものではなく、ながめるだけの目安です。
これを書いたときは、ただの逃げ口上のつもりでした。調べたあとで読み返すと、思っていたより大事な一行だったという気がしています。
かつて、同じ3本の線が、事故を防ぐための根拠として使われていた。体操協会との契約が切れたのが2001年だというのは、遠い昔の笑い話ではないということです。

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